
こんにちは。よっしーです(^^)
本日は、Go言語のパフォーマンス分析ついて解説しています。
背景
Go言語でアプリケーションを開発していると、必ずと言っていいほど直面するのがパフォーマンスの問題や予期しないバグです。「なぜこんなにメモリを消費しているのか?」「どこで処理が遅くなっているのか?」「このゴルーチンはなぜデッドロックしているのか?」—— こうした疑問に答えるために、Goのエコシステムには強力な診断ツール群が用意されています。
しかし、これらのツールは種類が多く、それぞれ異なる目的と特性を持っているため、どのような場面でどのツールを使うべきか迷ってしまうことも少なくありません。プロファイリング、トレーシング、デバッギング、ランタイム統計…それぞれのツールが解決できる問題は異なり、時には相互に干渉し合うこともあります。
本記事では、Go公式ドキュメントの診断ツールに関する解説を日本語で紹介しながら、実際の開発現場でどのように活用できるかを探っていきます。適切なツールを選択し、効果的に問題を診断することで、より高品質で高性能なGoアプリケーションの開発が可能になるはずです。特に、パフォーマンスのボトルネックを特定し改善することは、ユーザー体験の向上やインフラコストの削減に直結する重要なスキルと言えるでしょう。
トレーシング
トレーシングは、一連の呼び出しのライフサイクル全体にわたるレイテンシを分析するためにコードを計装する方法です。Goは、Goノードごとの最小限のトレーシングバックエンドとしてgolang.org/x/net/traceパッケージを提供し、シンプルなダッシュボード付きの最小限の計装ライブラリを提供します。Goはまた、インターバル内のランタイムイベントをトレースする実行トレーサーも提供します。
トレーシングにより以下が可能になります:
- Goプロセス内のアプリケーションレイテンシの計装と分析
- 長い呼び出しチェーンにおける特定の呼び出しのコストの測定
- 使用率とパフォーマンス改善の把握。ボトルネックはトレーシングデータなしでは必ずしも明白ではありません。
モノリシックシステムでは、プログラムの構成要素から診断データを収集することは比較的簡単です。すべてのモジュールは1つのプロセス内に存在し、ログ、エラー、その他の診断情報を報告するための共通リソースを共有します。システムが単一プロセスを超えて成長し、分散化し始めると、フロントエンドWebサーバーから始まり、すべてのバックエンドを経由してユーザーにレスポンスが返されるまでの呼び出しを追跡することが困難になります。ここで分散トレーシングが、本番システムの計装と分析において大きな役割を果たします。
分散トレーシングは、ユーザーリクエストのライフサイクル全体にわたるレイテンシを分析するためにコードを計装する方法です。システムが分散化され、従来のプロファイリングやデバッギングツールがスケールしない場合、分散トレーシングツールを使用してユーザーリクエストとRPCのパフォーマンスを分析したくなるでしょう。
分散トレーシングにより以下が可能になります:
- 大規模システムにおけるアプリケーションレイテンシの計装とプロファイリング
- ユーザーリクエストのライフサイクル内のすべてのRPCの追跡と、本番環境でのみ見える統合の問題の発見
- システムに適用できるパフォーマンス改善の把握。多くのボトルネックはトレーシングデータの収集前は明白ではありません。
Goエコシステムは、各トレーシングシステム用の様々な分散トレーシングライブラリと、バックエンドに依存しないライブラリを提供します。
トレーシング – リクエストの「追跡調査」
トレーシングとプロファイリングの違い
例え:
- プロファイリング = 健康診断(どの臓器が弱っているか)
- トレーシング = GPSトラッキング(荷物がどこを通ってどれくらい時間がかかったか)
| 項目 | プロファイリング | トレーシング |
|---|---|---|
| 目的 | どの関数が重いか | リクエストがどこで時間を使っているか |
| 範囲 | プログラム全体 | 特定のリクエストの流れ |
| 視点 | 静的な分析 | 動的な追跡 |
ローカルトレーシング(単一プロセス)
基本的な実装例
package main
import (
"context"
"fmt"
"golang.org/x/net/trace"
"net/http"
"time"
)
func main() {
// トレースを有効化
trace.AuthRequest = func(req *http.Request) (any bool, sensitive bool) {
return true, true // 全てのリクエストを許可
}
http.HandleFunc("/api/users", handleUsers)
// トレースダッシュボード
// http://localhost:8080/debug/requests で確認可能
http.ListenAndServe(":8080", nil)
}
func handleUsers(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
// トレース開始
tr := trace.New("api.users", r.URL.Path)
defer tr.Finish()
// 各処理をトレース
tr.LazyPrintf("Starting user request")
// データベースアクセス
tr.LazyPrintf("Fetching from database...")
users := fetchUsersFromDB(tr)
// キャッシュ更新
tr.LazyPrintf("Updating cache...")
updateCache(tr, users)
// レスポンス送信
tr.LazyPrintf("Sending response")
w.Write([]byte("Users fetched"))
}
func fetchUsersFromDB(tr trace.Trace) []User {
defer tr.LazyPrintf("DB fetch completed")
// 実際のDB処理
time.Sleep(100 * time.Millisecond) // DB遅延のシミュレーション
return []User{{Name: "Alice"}, {Name: "Bob"}}
}
func updateCache(tr trace.Trace, users []User) {
defer tr.LazyPrintf("Cache update completed")
time.Sleep(50 * time.Millisecond) // キャッシュ更新
}
トレース結果の例:
Request: /api/users
Duration: 155ms
Events:
0ms: Starting user request
0ms: Fetching from database...
100ms: DB fetch completed
100ms: Updating cache...
150ms: Cache update completed
150ms: Sending response
実行トレーサー(Runtime Tracer)
Goランタイムの内部動作を可視化:
package main
import (
"os"
"runtime/trace"
"time"
)
func main() {
// トレースファイルを作成
f, _ := os.Create("trace.out")
defer f.Close()
// トレース開始
trace.Start(f)
defer trace.Stop()
// 並行処理の例
ch := make(chan int)
// ゴルーチン1
go func() {
time.Sleep(10 * time.Millisecond)
ch <- 1
}()
// ゴルーチン2
go func() {
time.Sleep(20 * time.Millisecond)
ch <- 2
}()
// 結果を待つ
<-ch
<-ch
}
分析方法:
# トレースを可視化
go tool trace trace.out
# ブラウザが開いて、ゴルーチンの動きが見える
分散トレーシング(マイクロサービス)
なぜ分散トレーシングが必要?
モノリシック(単一サービス):
ユーザー → Webサーバー → 完了
(全て同じプロセス内)
マイクロサービス(分散システム):
ユーザー → API Gateway → User Service → Database
↘ Order Service → Payment API
↘ Inventory Service
問題:どこで遅延が発生しているか分からない!
分散トレーシングの実装例(OpenTelemetryを使用)
package main
import (
"context"
"log"
"net/http"
"go.opentelemetry.io/otel"
"go.opentelemetry.io/otel/trace"
)
var tracer trace.Tracer
func init() {
// トレーサーの初期化
tracer = otel.Tracer("example-service")
}
// APIゲートウェイ
func handleRequest(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
// 新しいスパン(トレースの単位)を開始
ctx, span := tracer.Start(r.Context(), "handleRequest")
defer span.End()
// ユーザーサービスを呼び出し
userInfo := callUserService(ctx)
// 注文サービスを呼び出し
orderInfo := callOrderService(ctx)
// レスポンスを返す
w.Write([]byte(userInfo + orderInfo))
}
// ユーザーサービスの呼び出し
func callUserService(ctx context.Context) string {
// 子スパンを作成
ctx, span := tracer.Start(ctx, "callUserService")
defer span.End()
span.AddEvent("Fetching user data")
// 実際のHTTPリクエスト(トレースIDを伝播)
req, _ := http.NewRequestWithContext(ctx, "GET",
"http://user-service/api/user", nil)
// トレースIDをヘッダーに追加
propagator := otel.GetTextMapPropagator()
propagator.Inject(ctx, req.Header)
// リクエスト実行
client := &http.Client{}
resp, _ := client.Do(req)
return "User data retrieved"
}
// 注文サービスの呼び出し
func callOrderService(ctx context.Context) string {
ctx, span := tracer.Start(ctx, "callOrderService")
defer span.End()
// 同様に実装...
return "Order data retrieved"
}
トレースの可視化例
トレースID: abc-123-def
┌────────────────────────────────────────────┐
│ handleRequest (200ms) │
├────────┬───────────────────────────────────┤
│ │ callUserService (80ms) │
│ ├──────────────────┬────────────────┤
│ │ │ DB Query (50ms)│
├────────┴──────────────────┴────────────────┤
│ callOrderService (100ms) │
│ ├───────────────────────────────────┤
│ │ Payment API Call (70ms) │
└────────┴───────────────────────────────────┘
実践的な使い分け
いつローカルトレーシングを使う?
- 単一サービスの詳細分析
- 関数呼び出しの流れを追跡
- 開発環境でのデバッグ
いつ分散トレーシングを使う?
- マイクロサービス環境
- 複数のサービス間の連携調査
- 本番環境の問題調査
主要な分散トレーシングツール
// 1. Jaeger(人気のOSS)
import "github.com/uber/jaeger-client-go"
// 2. Zipkin
import "github.com/openzipkin/zipkin-go"
// 3. AWS X-Ray
import "github.com/aws/aws-xray-sdk-go"
// 4. Google Cloud Trace
import "cloud.google.com/go/trace"
// 5. OpenTelemetry(標準化された方法)
import "go.opentelemetry.io/otel"
トレーシングのベストプラクティス
// 1. 適切なサンプリング
type Sampler struct {
rate float64 // 例: 0.1 = 10%のリクエストをトレース
}
func (s *Sampler) ShouldSample() bool {
return rand.Float64() < s.rate
}
// 2. 重要な情報をタグとして追加
span.SetAttributes(
attribute.String("user.id", userID),
attribute.Int("order.items", itemCount),
attribute.Float64("payment.amount", amount),
)
// 3. エラー情報の記録
if err != nil {
span.RecordError(err)
span.SetStatus(codes.Error, err.Error())
}
実装チェックリスト
□ トレーシングシステムの選定
□ サンプリングレートの決定
□ トレースIDの伝播設定
□ 重要なビジネスメトリクスの定義
□ ダッシュボードの構築
□ アラートの設定
□ 保存期間の決定
□ チームへのトレーニング
トレーシングは「リクエストの旅路を記録する日記」のようなものです。どこで時間を使い、どこで問題が発生したかを正確に把握できるようになります!
おわりに
本日は、Go言語のパフォーマンス分析について解説しました。

何か質問や相談があれば、コメントをお願いします。また、エンジニア案件の相談にも随時対応していますので、お気軽にお問い合わせください。
それでは、また明日お会いしましょう(^^)

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