
こんにちは。よっしーです(^^)
本日は、Go言語のガベージコレクターついて解説しています。
背景
Goのガベージコレクター(GC)は、多くの開発者にとって「ブラックボックス」のような存在です。メモリ管理を自動で行ってくれる便利な仕組みである一方、アプリケーションのパフォーマンスに大きな影響を与える要因でもあります。「なぜ突然レスポンスが遅くなるのか?」「メモリ使用量が想定より多いのはなぜか?」「GCの停止時間をもっと短くできないか?」—— こうした疑問は、Goで高性能なアプリケーションを開発する上で避けて通れない課題です。
本記事では、Go公式ドキュメントの「ガベージコレクションガイド」を日本語で紹介します。このガイドは、GCの動作原理を理解し、その知見を活用してアプリケーションのリソース使用効率を改善することを目的としています。特筆すべきは、このドキュメントがガベージコレクションの前提知識を一切要求しない点です。Go言語の基本的な知識さえあれば、誰でもGCの仕組みを深く理解できるよう設計されています。
なぜ今、GCの理解が重要なのでしょうか。クラウドネイティブ時代において、リソースの効率的な活用はコスト削減に直結します。また、マイクロサービスアーキテクチャでは、各サービスのレイテンシが全体のユーザー体験に影響するため、GCによる一時停止を最小限に抑えることが求められます。このガイドを通じて、「なんとなく動いている」から「理解して最適化できる」レベルへとステップアップし、より高品質なGoアプリケーションの開発を目指しましょう。
追加リソース
Go GCの設計におけるコストとトレードオフを完全に理解するために、以下の追加リソースを参照してください。
- The GC Handbook—ガベージコレクタ設計に関する優れた一般的なリソースおよびリファレンス。
- TCMalloc—GoメモリアロケータのベースとなっているC/C++メモリアロケータTCMallocの設計ドキュメント。
- Go 1.5 GCアナウンス—Go 1.5の並行GCを発表したブログ記事。アルゴリズムをより詳細に説明しています。
- Getting to Go—2018年までのGoのGC設計の進化に関する詳細なプレゼンテーション。
- Go 1.5 concurrent GC pacing—並行マークフェーズをいつ開始するかを決定するための設計ドキュメント。
- Smarter scavenging—Goランタイムがオペレーティングシステムにメモリを返す方法を改訂するための設計ドキュメント。
- Scalable page allocator—Goランタイムがオペレーティングシステムから取得したメモリを管理する方法を改訂するための設計ドキュメント。
- GC pacer redesign (Go 1.18)—並行マークフェーズをいつ開始するかを決定するアルゴリズムを改訂するための設計ドキュメント。
- Soft memory limit (Go 1.19)—ソフトメモリ制限の設計ドキュメント。
さらに深く学ぶためのリソース集
もっと深く知りたい方のためのリソースをレベル別に整理しました。
1. Go 1.5 GCアナウンス (2015年)
おすすめ度: ⭐⭐⭐⭐⭐
リンク: https://go.dev/blog/go15gc
内容:
- GoのGCがどのように進化したか
- なぜ並行GCが必要だったか
- レイテンシの改善について
こんな人におすすめ:
- GoのGCの歴史を知りたい
- 並行GCの基本を理解したい
- 実際のパフォーマンス改善例を見たい
キーポイント:
Go 1.4以前:
- ストップ・ザ・ワールドGC
- 一時停止が長い(数百ms)
Go 1.5以降:
- 並行GC
- 一時停止が短い(10ms未満)
2. Getting to Go (2018年のプレゼンテーション)
おすすめ度: ⭐⭐⭐⭐⭐
リンク: https://go.dev/blog/ismmkeynote
内容:
- 2018年までのGC進化の歴史
- 各バージョンでの改善
- 今後の方向性
こんな人におすすめ:
- GoのGC設計の全体像を知りたい
- なぜこの設計なのか理解したい
- パフォーマンスチューニングのヒントが欲しい
学べること:
- レイテンシとスループットのバランス
- 並行GCの課題と解決策
- 実際のアプリケーションでの効果
3. Go 1.5 concurrent GC pacing
おすすめ度: ⭐⭐⭐⭐
リンク: https://docs.google.com/document/d/1wmjrocXIWTr1JxU-3EQBI6BK6KgtiFArkG47XK73xIQ
内容:
- GCをいつ開始するかの決定ロジック
- ペーシングアルゴリズムの詳細
- パフォーマンスへの影響
こんな人におすすめ:
- GOGCパラメータの影響を深く知りたい
- GCのタイミングを理解したい
- パフォーマンス問題をデバッグしたい
重要な概念:
// GCペーシングの目標:
// - メモリ使用量が目標に達する前にGCを完了
// - アプリケーションの割り当て速度に追従
target := live + live*GOGC/100
// このtargetに達する前にGCを完了させる
4. GC pacer redesign (Go 1.18)
おすすめ度: ⭐⭐⭐⭐
リンク: https://github.com/golang/proposal/blob/master/design/44167-gc-pacer-redesign.md
内容:
- Go 1.18でのGCペーシングの改善
- より正確なメモリ管理
- パフォーマンスの向上
こんな人におすすめ:
- Go 1.18以降のGC改善を知りたい
- 最新のGC動作を理解したい
- 古いバージョンとの違いを知りたい
主な改善:
Before (Go 1.17以前):
- GCのタイミング予測が不正確
- メモリオーバーヘッドが大きい
After (Go 1.18以降):
- より正確な予測
- メモリ使用量の削減
5. Soft memory limit (Go 1.19)
おすすめ度: ⭐⭐⭐⭐⭐
リンク: https://github.com/golang/proposal/blob/master/design/48409-soft-memory-limit.md
内容:
- GOMEMLIMITの設計
- なぜ必要だったか
- どのように動作するか
こんな人におすすめ:
- メモリ制限を使いたい
- コンテナでGoアプリを動かしている
- OOMを避けたい
実用的な情報:
# コンテナで実行する場合
GOMEMLIMIT=900MiB # コンテナ制限の90%
GOGC=100
# 効果:
# - OOMのリスク削減
# - メモリ使用量の予測可能性向上
6. TCMalloc
おすすめ度: ⭐⭐⭐
リンク: https://github.com/google/tcmalloc/blob/master/docs/design.md
内容:
- GoのメモリアロケータのベースとなったTCMalloc
- 高速なメモリ割り当ての仕組み
- スレッドローカルキャッシュ
こんな人におすすめ:
- メモリアロケータの内部実装に興味がある
- パフォーマンス最適化の深い理解が必要
- システムプログラミングに興味がある
学べること:
- Size class (サイズクラス)
- Thread cache (スレッドキャッシュ)
- Central free list (中央フリーリスト)
7. Smarter scavenging
おすすめ度: ⭐⭐⭐
リンク: https://github.com/golang/proposal/blob/master/design/30333-smarter-scavenging.md
内容:
- OSへのメモリ返却の改善
- メモリの効率的な再利用
- RSSの削減
こんな人におすすめ:
- メモリ使用量を最小化したい
- RSS (Resident Set Size)を理解したい
- 長時間動作するサービスを開発している
重要な概念:
Scavenging = 使わなくなったメモリをOSに返却
Before:
- 返却が遅い
- RSSが高いまま
After:
- より積極的に返却
- RSSを低く保つ
8. Scalable page allocator
おすすめ度: ⭐⭐⭐
リンク: https://github.com/golang/proposal/blob/master/design/35112-scaling-the-page-allocator.md
内容:
- ページアロケータの改善
- 大規模アプリケーションのスケーラビリティ
- メモリ管理の効率化
こんな人におすすめ:
- 大規模なGoアプリケーションを開発
- メモリ管理のパフォーマンスを最適化したい
- 内部実装に興味がある
9. The GC Handbook
おすすめ度: ⭐⭐⭐⭐
書籍: “The Garbage Collection Handbook: The Art of Automatic Memory Management”
内容:
- GC全般の理論と実装
- さまざまなGCアルゴリズム
- パフォーマンス分析
こんな人におすすめ:
- GCの理論的背景を学びたい
- 他の言語のGCと比較したい
- GCの研究や実装に興味がある
カバーする内容:
- Mark-Sweep (マーク・スイープ)
- Generational GC (世代別GC)
- Concurrent GC (並行GC)
- Real-time GC (リアルタイムGC)
学習ロードマップ
レベル1: 基本を理解する (初心者)
1. このガイドを読む
↓
2. Go 1.5 GCアナウンスを読む
↓
3. Getting to Goを見る
↓
理解度チェック:
□ GoのGCが並行であることを説明できる
□ GOGCの役割を理解している
□ レイテンシとスループットの違いがわかる
レベル2: 実践的な知識を得る (中級者)
1. Soft memory limitの設計文書を読む
↓
2. 実際のアプリでGOMEMLIMITを試す
↓
3. GC pacer redesignを読む
↓
理解度チェック:
□ メモリ制限を適切に設定できる
□ GCのメトリクスを監視・解釈できる
□ パフォーマンス問題をデバッグできる
レベル3: 深い理解を得る (上級者)
1. TCMallocの設計を学ぶ
↓
2. Scavengingとpage allocatorを読む
↓
3. The GC Handbookで理論を学ぶ
↓
理解度チェック:
□ メモリアロケータの内部動作を説明できる
□ GCの実装を理解している
□ カスタムチューニングができる
ドキュメントの読み方
1. 問題から逆引き
問題: メモリ使用量が高い
↓
読むべき: Soft memory limit, Smarter scavenging
問題: GCが頻繁すぎる
↓
読むべき: GC pacing, GOGC tuning
問題: レイテンシが高い
↓
読むべき: Go 1.5 GC announcement, Getting to Go
2. コードと一緒に読む
// ドキュメントを読みながら実験
package main
import (
"fmt"
"runtime"
"runtime/debug"
)
func experiment() {
// Soft memory limitを試す
debug.SetMemoryLimit(100 * 1024 * 1024)
var m runtime.MemStats
runtime.ReadMemStats(&m)
fmt.Printf("Alloc: %v MB\n", m.Alloc/1024/1024)
fmt.Printf("Sys: %v MB\n", m.Sys/1024/1024)
// ドキュメントの説明と実際の動作を比較
}
3. トレースで確認
# 実行トレースを取得
go test -trace=trace.out
# トレースを解析
go tool trace trace.out
# ドキュメントで学んだことを確認
# - GCのタイミング
# - ペーシングの動作
# - メモリ返却
公式ドキュメント
- Go Blog: https://go.dev/blog/
- Design Docs: https://github.com/golang/proposal/tree/master/design
- Runtime Package: https://pkg.go.dev/runtime
コミュニティ
- Go Forum: https://forum.golangbridge.org/
- Reddit r/golang: https://reddit.com/r/golang
- Gophers Slack: https://gophers.slack.com/
質問する前に
□ 公式ドキュメントを読んだか?
□ 実際に試してみたか?
□ エラーメッセージを検索したか?
□ 最小限の再現コードを作成したか?
まとめ
| リソース | レベル | 重要度 | 読む順番 |
|---|---|---|---|
| このガイド | 初級 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 1 |
| Go 1.5 GCアナウンス | 初級 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 2 |
| Getting to Go | 初〜中級 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 3 |
| Soft memory limit | 中級 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 4 |
| GC pacer redesign | 中級 | ⭐⭐⭐⭐ | 5 |
| GC pacing | 中級 | ⭐⭐⭐⭐ | 6 |
| Smarter scavenging | 中〜上級 | ⭐⭐⭐ | 7 |
| Scalable allocator | 中〜上級 | ⭐⭐⭐ | 8 |
| TCMalloc | 上級 | ⭐⭐⭐ | 9 |
| GC Handbook | 上級 | ⭐⭐⭐⭐ | 10 |
学習のヒント:
- ✅ 順番に読む – 基礎から応用へ
- ✅ 実際に試す – コードで確認
- ✅ 疑問を持つ – 「なぜ?」を考える
- ✅ 共有する – 学んだことをアウトプット
GoのGCは常に進化しています。最新情報は公式ブログやデザインドキュメントでチェックしましょう!
おつかれさまでした! これでGoのGCガイドは完了です。実際のアプリケーション開発に活かしてください! 🎉
おわりに
本日は、Go言語のガベージコレクターについて解説しました。

何か質問や相談があれば、コメントをお願いします。また、エンジニア案件の相談にも随時対応していますので、お気軽にお問い合わせください。
それでは、また明日お会いしましょう(^^)

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